無添加への20年

20年前、
ラーメンやギョーザの職人だった私にキムチ作りの基本を教えてくれたのは、韓国から来たパートさんの「ヤンおばさん」でした。

でも、習っているうちに、あまりに大量の添加物を使用するのを見てびっくり。

思わず、「おばさん、化学調味料をこんなに使わなければ、キムチって出来ないものなの?」と聞いてしまいました。

おばさんは、
「じゃあ、調味料ゼロのキムチがどんなものなのか、食べてみな」
といい、調味料抜きのキムチを作ってくれました。

その味は・・・辛いだけで、全く美味しくない・・・!

「よそではもっと調味料を使っているよ。私は少ないほうだよ」
とおばさんは言いました。
「日本人はね、この味がないと美味しいと言わないんだよ。
私だって入れたくないよ。でも、売れなきゃ仕方ないでしょう」

その時の化学調味料の使用比率、製品の1.2%でした。

「韓国でもこんなに調味料を使うの?」と聞くと、

「昔の人は使わないわよ。でも、
日本の影響で最近は入れるところが多いわね。
それに、調味料を使えば安上がりだし、
いろいろ材料を入れなくていいし、商売
にするなら、入れなきゃね」

白い、魔法の粉・・・化学調味料・・・。
それを入れれば、簡単、安上がり、そして儲かる・・。これは衝撃でした。

おばさんはすぐにビザが切れて帰国してしまい、
それから私が自分で作る様になり
ました。そこから今までの20年間が、やがちゃんキムチの歴史です。

即座に私は調味料を全廃してみました。すると、それまでのお客さんから苦情の嵐。

「旨みが全然無くて辛いだけだ! これじゃ食えない!」

・・・・・

やむなく調味料を少量復活させましたが、「自然の素材だけで美味しく安全に召し上がって頂けるキムチは出来ないものか」と考え続けました。

まず、唐辛子を溶く液体を「水」から「肉スープ」に変え、ベースの旨みを増加させる研究をしました。

スープの中に、ワタリガニや利尻昆布、羅漢果なども入れ、
豚肉や鶏肉をメインに10時間も煮出す・・・ここではラーメン屋の経験が生きました。
手間は掛かりますが、味の土台がしっかりして、調味料比率を一気に0.3%にまで落とすことが出来たのです。
この時点で既に、市販キムチの中では、最も低い比率の添加だったと思います。

その後、高価な牡蠣やホタテも入れ、アミえびやにんにくの比率も増やすことで、0.1%まで下げました。
0.1%とは、つまり、1000分の1です。ほとんどゼロも同然なのですが、それでも、
入れると入れないとでは、味覚の最後の「刺激感」が違います。

他の添加物はもともと使っていませんから、この1000分の1を削りさえすれば、
「完全無添加」となるのです。
最高の美味を、完全無添加で実現したいと・・・。

そして最後にトライしたのが、日本の伝統的な旨み素材の利用です。

昆布、しいたけ、煮干で濃厚な旨みだしをとり、ヤンニョムに加える。
それでも足らない刺激感は、日本の伝統の発酵技術の粋である、「味噌」「醤油」を加えたらどうか・・・。
りんごやレモンの果汁を絞って加えたらどうか・・。

数限りない試作の末、ようやく結論にたどり着いたのが、昨年の6月。
キムチ屋創業から20年経っていました。
ヤンおばさんが、海の向こうから、「あんた、ようやく出来たね」と言ってくれたような気がしました。

今、やがちゃんキムチの全商品は、完全な無添加です。
添加物の類は、工場内に一粒もありません。

やがちゃんの美味しさの全ては、天然の素材の美味しさです。

もちろん、製法は私の手作り。一品一品、オーダーを受けてから、気持ちを込めてお作りしています。

全ては、「美味しかったよ!」の笑顔のために。

そして、「全部自然のものから作りました」と笑ってお答えを返せるように。

これからも頑張ります。