出汁の力

だしは「旨み」の真髄

日本には独特の「だし」(出汁)の文化があります。

それぞれ各地の山海の産物から、「旨み」を抽出するものが出汁ですね。

代表的なものは、かつおぶし、昆布、魚の煮干し、菌茸類、アサリやホタテなどの貝類、野菜類などですね。
それぞれが独特の旨みを持ち、そこから取り出した成分が料理の「下味」を支える役目を担います。
これこそが、「旨み」の真髄ですね。

味の7要素と、その構造

私見ですが、「味」には、「甘い」「酸っぱい」「辛い」「苦い」の要素とともに、「旨い」という感覚と、「しょっぱい」という感覚があります。「旨味」は、「塩味」とともに、味全体の構造を支えます。この二つがない味わいは、土台のない味となり、いわば「腑抜け」の味となります。(繰り返しますが、私見です)

ですが、この「旨み」を出す最大の武器の「出汁」は、なかなか利用されません。

それは、材料が高い、手間がかかる、保存が利かない、という「三重苦」を背負っているからです。

そこで登場するのが、「化学調味料」なのですね。

化学調味料を使う理由は簡単

安い、入れるだけの手軽さ、そして半永久的に保存できるという「有難さ」があるからです。

これは私が実験的に試したことですが、グルタミン酸を多く含む昆布を長時間煮出して、煮詰めて煮詰めて180ccの昆布出汁を作り、化学調味料の「味の素」(科学的にサトウキビのエキスからグルタミン酸を抽出した商品名です)10gを水180ccに溶かしたものと味比べをした場合・・・いったい昆布を何グラム必要としたか・・・

「味比べ」なので感覚値ですが、なんと、1キロ以上の昆布が必要でした。

かたや市販の味の素、10g、約5~10円程度。かたや昆布1キロ、数千円。
重さにして100倍、値段にして千倍!

しかも、昆布を1キロ煮詰めるその手間たるや、半端なものではありません。
加工食品は、塩分とともに、旨みを出す「アミノ酸化学調味料」を非常に多く使いますがその背景には、こうしたことがあるのです。「美味しい」「味がある」という感覚を出すために、化学調味料を入れる。非常に安易で、非常に効果的で、経済的。

市販のキムチに平均的に入れられる化学調味料の配合費は、2~数パーセント以上と思われます。これを昆布出汁で賄おうとすれば、計算上、キムチよりはるかに多量の昆布が必要となってしまいます。

やがちゃんキムチは無添加です。化学調味料、もちろんゼロです。しかも、無添加でありながら、豊かな旨みを目指しています。何故か?

問題は、「志」

その理由は、ひとことで書けば、「志」なのです。

なんとしても、美味しいものを作りたい。無添加で作りたい。そこが私の出発点です。それを実現させるのが当店の進み方であり、添加物を入れることは、当店の価値を無くすことにつながります。

その志で、日本の「出汁」の利用を考えたのです。

日本に生まれ日本で育った日本人の調理人が、和の出汁を利用しない手はありません。

さまざまの素材で出汁を取り、キムチに応用してみました。

そして現在の『やがちゃん出汁』に行き着きました。

鶏肉豚肉スープの出汁と、昆布、イワシ、シイタケから取る和風出汁です。

この二つの出汁のミックスが、キムチのタレ(ヤンニョムジャン)の味の下支えをしてくれます。
やがちゃんのヤンニョムジャンは、無添加で優しい味なのに、しっかりとしていて、薄めても味が割れない。キムチの残り汁だけでも十分ご飯が食べられる・・・・というのは、この出汁の力の成せる技なのです。

仮にこの出汁と同じ成分の化学調味料を作り加えたとしても、同じ味はまったく出ません。なぜなら、生きた自然の食材に、高温抽出した合成素材は馴染まないからです。
キムチ独特の、発酵による味の変化も楽しめません。
上から強制的に味をかぶせる化学調味料添加は、本来の美味しさとは全く別の味にしてしまいます。

それを使うのは、職人の恥。こう言い切っていいと思っています。

出汁の詳細については、別の項でまた触れます。