インボイス制度の本質は何か

10月1日から始まった 消費税のインボイス制度。今になって「ああ、そういうことか」と感じることが多々出てきました。

SNS等でも多くの方が色々書かれていますが、 表層的なことしか書かれていないと思われるものも多いです。
例えば、「消費税は預かり金 だから払って当たり前じゃないか」とか、「今まで益税を貰っていたのだから、これからは許されない」とか。

 

一方 インボイス制反対派の立場の方からは、「消費税 自体が 逆進性があるから無くした方がいい」とか、「消費税がなければ 景気は大浮揚するはず」とか、「零細業者いじめではないか」とか。

それぞれに「なるほど」と思うことも多いのですが、しかし、インボイス制 問題の本質はもう一つ重要な要素を孕んでいる、と私は感じています。

インボイス制度では、「年商1000万」で線引きをしますね。
9月30日まで、売り上げが1千万未満の人や会社には、消費税納入の義務はありませんでした。
それが10月からは、1千万未満でも「インボイス制登録業者」であることを選択すると、納入の義務が生じます。
一方、 売上1000万円以下でも、今まで通り非課税業者の立場を選択出来て、今まで同様に非課税となります。

ところが、その非課税業者に物やサービスを発注した会社は、その非課税業者が免除された消費税を、代わって払う義務が生じるのです。これが、今回の制度の大きなポイントですね。消費税は必ず払われるのです。

つまり、非課税の業者に発注すると、発注元の負担が増えるのです。
そうであれば、出来るだけ「課税業者」から仕入れようとするのは、自然の流れですよね。

端的に言えば、「非課税かも知れないような小さな零細業者や個人の業者などには、発注しない、仕事を回さない」という現象が増えるはずなのです。これは、「課税業者に違いない大きなところに仕事を頼めば、間違いない」という考えにつながります。

少し飛躍して書きますと、これはつまり 小さな下請け業者をたくさん抱えているような規模の大きい 元請け業者を優遇させることにつながる、ともいえると思うのです。

つまり、仕事を発注する側は、課税業者である 大手元請け業者に発注すれば消費税関連の負担や処理の心配はなくなる。
一方、個人でやってるような 零細な現場の職人さんに直接頼むと、頼んだ側が消費税を負担しなければならなくなるかもしれない。
だったら初めから、そんな零細業者に頼まず、比較的規模のあるナントカ建設とかナントカ設備工業だとかいう 元請け業者に頼む、という動きになるわけです。
ここまでは、新聞等で指摘されていることですね。

問題はその先です。
上記の場合、ナントカ建設は多くの場合、その仕事を関連の下請け業者に回します。
さらに場合によっては、その下請け会社は、個人でやっているような熟練の職人さんに孫請けに出すかもしれません。
その孫請けを出された職人さんは、ついこの前までは、自分で直接仕事を受けることが出来ていた方かも知れないのです。

つまり、今回のインボイス制度は、日本のあらゆる業界に蔓延っている「元請け下請け構造」を増長させることにもつながると思えるのです。
そして、最終的に「現場」で仕事をするのは、こういった「孫請け」である個人の職人さん等であることが、相変わらず多いのかもしれません。

元請け、下請け、孫請けの3者があるとして、孫請けは、現場で仕事をします。作業を行うのは、最下層の孫請けなのです。
孫請けに発注する下請けは、元請けからもらう工賃から「ピンハネ」して利益とします。
下請けに発注する元請けは、発注者から工事代を貰い、「ピンハネ」して利益とし、仕事を下請けに回すのです。

末端の個人の職人さんが直接仕事を受ければ、孫請けとしての仕事よりも当然 収入は増える。
でも個人の職人に仕事が回ってこない 以上、こういった 下請け、 孫請け、さらにひ孫受けのような構造がどんどん増長することになる。

お分かりでしょうが、こうした不自然ともいえる構造は、日本の産業界の構造的な 特徴なのです。
そして今回 税法改正がこの構造を増幅させることになっているわけです。

頼む側とすれば 個人の職人さんに直接頼んだ方がよほど安くできます。「ピンハネ」が無いのですから。
しかし インボイス制度によって それが大いにしづらくなる。
下請け費用、 孫請け費用を加えた無駄な 代金を払う 構造になってしまう。
その代金の原資が、税金であることも多いです。公共工事などはそうでしょう。
税金が増えるということは、国民の負担が増えるということです。

そして、乱暴な言い方をすれば、「構造」の上部にある人や会社にとって、とても都合のいい構造である、ということになるのです。

建設だけではなく あらゆる業界に見える この いわゆる 孫請け、下請けの連鎖が、さらに増幅していくということです。

これが 今回のインボイス制の問題の本質だと私は思っています。

別の言葉で言うと、産業界の格差の拡大です。
国民の間の格差はこうして広がっていきます。
ビジネスや政治構造の上層に位置する人たちの権益利益だけが増え、現場で実務に携わる 多くの人たちの利益がその分 減る。

日本は、中小企業立国と言われてきました。
独自の技術を培った個人や零細業者や中小業者が、産業界を「下から」支えてきました。

それが、税制の改革で、「上から」抑えつける構図になってしまわないか。
今回のインボイス制で一番気になるのは、その点です。

百花繚乱、人の数だけ、会社の数だけ「売り」の技術がある。
そういう国は強いと思います。ピラミッド型の社会とは、大きな違いがあります。
一つがだめでも、他がある。次から次へと新たな斬新な技術や発想がどんどんと出てくる。そういう国が、これからの「乱世」では強い国となるのです。

上からの統制を強める税制が、それに逆行しているような気がします。