今回は、やがちゃんキムチの店主としての今までの経緯を簡単に書かせて頂きます。
長野県で生まれ東京に移り、小説や漫画が好きな普通の日本人の少年として育ちましたが、どういう運命のいたずらか、私は今、味の世界にいます。
料理の勉強をしたこともなく、師匠もいません。飲食店に勤めた経験も皆無です。もともとは実家を継いだ酒屋の小売店主であり、その前は英文学を学ぶ文学部の大学生でした。
やがちゃんキムチの創業は35歳の時。もう30年前のことです。
副業で経営していたラーメン店があまりうまくいかず、韓国出身のパートさんに作ってもらったキムチを、酒屋の得意先の飲食店に売り始めたのがきっかけでした。
そのキムチの評判が良かったので、新聞広告を出したり、楽天市場に出店したりしたのが20数年前。
もともと辛いものは苦手ですからキムチなど嫌いでした。それはキムチ屋を始めてからも変わらず、自分ではほとんど食べませんでした。
とにかく、売れればいい。売ってお金が入ればいい。どんな売り方でもいいから、売れればいい。その一心でした。
ですが、韓国のおばさんも帰国していなくなり、公私ともに失敗を繰り返して千葉に移ってから、考えが変わりました。というより、変えざるを得なくなりました。
強引に作り、やみくもに売っても、誰にも喜ばれない。自分にも喜びなどなく、ただ、売り上げがいくら上がったか、いくら足らないか、そんなことばかり気になって、幸福感や満足感や充実感などという言葉とは無縁の世界にいました。
そのうち、とにかく、売り上げが少なくともいいから、自分にとってもお客さんにとっても、「嬉しいもの」を作って売ろう。そう思うようになりました。
それならまず、キムチでは不可能とも思われた、「無添加」に挑んでみよう、と決めました。キムチは、辛い漬物です。ただでさえ、漬物はアミノ酸まみれの世界。そこに辛さが加わったキムチで、「自然の美味」を」無添加で感じてもらえるのは、ほとんど不可能だと思われていました。
無添加のキムチと称するものもあるにはありましたが、自分には食べられたものではありませんでした。
無添加にするのは簡単です。
アミノ酸等の添加物を入れなければいいだけの話で、だれでもすぐに無添加にできます。
しかし、それで美味を実現し、保存性も兼ね備えるのは、至難の業です。
工夫を凝らし、無添加化して売ってみました。
多くの方から「まずい」と言われました。
卸していた飲食店のお客さんには、「客の体の事などどうでもいいから、化学調味料をバンバン入れて作り直せよ!」と怒られたりしました。
でも、一旦無添加化してからは、二度と有添加には戻しませんでした。それをしたら、商売をやっている意味がなくなります。私にとっては、商売をやめるということは人生をやめることに等しいです。
やったのは、天然素材を増やすこと、配合を工夫すること、和食や中華の技術を応用すること、旨味の科学を勉強すること・・・等々です。
言ってみれば、現場で自分で、料理学校を開いていたようなものです。それも、お客さんをある意味実験台にしながら。
「おたくのキムチはいつも味が違うね」とはよく言われましたが「前より美味しいね」とも言われました。ある意味で本望でした。
キムチの作業の第一歩は塩漬けです。
それなら、無添加で美味しい塩を自分で配合し、それで白菜を漬けてみようと考え、東日本大震災の年に、一つの結論として、「頂」という名の白菜キムチを出しました。
それは大好評で、10年後の今に至るまで、うちの看板商品として活躍してくれています。
その後、唐揚げやカレー、マーボ豆腐、チャーシュー、弁当等々に扱い商品網を広げられたのも、キムチの無添加化で呻吟した経験があったからです。こうした総菜類も、もちろん無添加ですが、関連業種の人なら、それがいかに困難なことであるかは分かっているでしょう。
料理学校に行ったことはありませんが、学校ではたぶん無添加技術を教えてくれないし、教えられる人もいないでしょう。
何故なら、たかがキムチや総菜ですが、それは、すでに「技術」の問題などではなくなり、「生き方」の問題になっているからです。現場で苦しみながら、商品にだけは噓をつくまいと、固く思ってきた結果です。
料理は現場で「実践」したり「味わう」ことが先決の世界です。座学は関係ありません。理論も参考程度にしかなりません。
結局は、食べて味わうことでどのような「幸福感」を感じられるか、それがその人の人生の状況にどう働きかけるか・・・つまりは、生きていく上での大きな「力」になってくれるのが、「食」の世界なのです。
「頂」から、10年。
その後の総菜の経験を生かし、さらなる進化のキムチを作りましたが、ネーミングに悩みましたが、それを「頂・その先」としたのは、以上のような経緯があるからです。
やがちゃんキムチは、社是として、「有料広告」を一切しません。(無償の取材や紹介報道はお受けします)
それから、無理な宣伝やSNS活動もしません。
SNSでしようとしているのは、今何を考え、何をしているか、何を見て何を感じたかを、率直に書くことです。
ご反応も、気にしないようにしています。
「売らんかな」の書き方をすることには、避けるようにしています。
商品は、それ自体が、少しずつ少しずつ、お客さんのご協力で、広まっていくべきもの。
「頂」も10年間で、そういう定着の仕方をしてきましたし、「頂・その先」も、そうなってくれると信じています。
私にとって、商売とは、自分で自分が「良い」と信じるものを作り、お客様にお渡ししていくことです。
これからもそれを続けていくつもりです。