世はまさに「発酵食品」ブームですね。
「発酵」というと、特別に健康にいい、味がいい、なんとなく格好いい、などというイメージが先行しているきらいがありますが、それにしても、発酵食品の代表選手のひとつでもある「漬物」については、なぜかあまり触れられないのが不思議です。
漬物は格好悪いのでしょうかね?
特に、けた違いな乳酸菌を生み出す「キムチ」という食品については、どうも議論から遠ざけられている気がします。
私どもは毎日作業場で「発酵食品」を生み出しているのですが、今まで、「その現場を見せてください」「漬物のつけ方を教えてください」と言われたことは一度もありません。
別に見せたいわけではありませんし、むしろ、作業の邪魔にもなりますから、見せたくはありません。
それにしても、やれ酒蔵だとか、醬油だとか、味噌だとか、ヨーグルトだとか、納豆だとか、Youtubeや個人ブログ等には製造現場のレポートがあふれているのに、なぜ漬物屋、特にやキムチ屋に「発酵食品の紹介」として取材が来ないのでしょう。
大きな答えが一つあります。
それは、
★この世には発酵食品と名乗れないような「キムチもどき」が蔓延している、ということです。
数年前に、北海道のキムチ業者が作ったキムチに菌が混入し、大きな食品事故になりました。
そのニュースを聞いたときに、私は「まさか!」と思いました。
食中毒の原因となった大腸菌は、キムチ屋では発生しえない菌だからです。
キムチだけでなく漬物一般は、野菜を塩漬けした瞬間から「発酵」が始まり、乳酸菌が生まれてきます。
この乳酸菌は、大腸菌などの有害な菌を圧倒的に殺してしまう見事な力を持っており、普通に漬けられた漬物からは、有害な大腸菌が検出されるわけがないのです。
だからそれまで、日本では「漬物製造」は自由でした。他の食品のように、営業許可などを得る必要がなかったのです。
ところがこの北海道のキムチ屋さんの事件を契機に、「漬物でも食品衛生はしっかりとしなければいけない」という政策がとられ、2024年6月からは、営業許可制となり、施設基準が設けられ、そのあおりを受けた地方の小規模な漬物屋が続々と廃業せざるを得ない状況となりました。
キムチ屋として考えました。
この事件は、ろくに発酵もさせない簡易的な漬け方で野菜を処理した後に、添加物たっぷりのたれをかけただけの「キムチもどき」の商品が生み出した悲劇ではなかったのか、と。
そして、普通に野菜を塩漬けして、漬けあがった野菜にキムチのタレ(ヤンニョム)を塗るという当たり前の工程すらとっていなかったのではないか、と。
そんな経済性ばかり追いかけた「キムチやもどき」の業者のおかげで、まともに漬物を作ってきた我々業者は余計な制約を受けるようになったのではないのか、と。
もちろん事件の真相は不明ですが、とにかく、ことほど左様に、漬物の発酵食品として特性がないがしろにされている、というのは事実なのだと思います。
そして、さらなる強力な発酵食品であるキムチは、どうなのかというと・・・
キムチのタレ(ヤンニョム)にその特徴があります。
唐辛子、にんにく、生姜などを多用するそのタレには、「魚介塩辛」も使われるのが本来の姿です。
魚介とは、アミエビ、いしもち、イワシなどです。
これらの魚介の塩辛自体も、強力な「発酵食品」であり、大量の乳酸菌を保有しています。その乳酸菌が、もともと発酵している白菜等の塩漬けに乗り移り、さらなる乳酸菌の増殖を果たしたものが、本来のキムチなのです。
こうして作られた本来の製法のキムチは、超多量の乳酸菌を持つに至ります。
これが単純な野菜の漬物と大きく違うところです。
一説には、ヨーグルトをはるかに上回る乳酸菌を持つといわれています。
これほどの「ザ・発酵食品」が、なぜ注目されないのか。
繰り返しになりますが、ひとつにそれは、「キムチもどき」商品が蔓延していることです。
スーパーのキムチ売り場に置かれている「キムチ」に表示されている原材料を見てください。
アミノ酸や酵母エキス等の化学調味料類はもちろん、保存料や着色料等の添加物を含むものがいかに多いか。
そして、魚介の塩辛等を使っていないものがいかに多いか。
つまり、ただの野菜の味付けともいえる「キムチもどき」がいかに多いかに、驚かされます。
そういうキムチもどきがあまりに多いのが、キムチが発酵食品として注目されない一つの要因です。
そしてもう一つ。
キムチは、日本の伝統食品でもないし、零細な業者が多いという現状もあるし、いわば、「格好の悪い」「スマートでない」「おしゃれでない」というイメージが付きまとっているのが、もう一つの要因ではないかと思われます。
ですが、アミノ酸も酵母エキスも使わず、正当な漬け方できちんと発酵させる「無添加キムチ」がいかに優れた発酵食品であるかは、当店のお客様が一番よくご存じであるところです。
取材を受けたいわけでもなく、紹介されたいわけでもありません。
ただ、日々繰り返し、真っ当な「発酵食品」を作り続けているという事実を、書かせていただいたまでです。